3日目はSchemeでリーダマクロを使ってみます。
僕が知る限り、Schemeの仕様にはユーザ定義のリーダマクロはありません。しかし、いくつかの処理系は独自にそれらを定義する方法をもっています。僕が知る限りではRacket、Gambit、Chicken、Sagittarius(拙作)は独自のリードテーブル拡張手続きを持っています。前2つはあるということくらいしか知らないので、ここでは拙作Sagittariusのリーダマクロの簡単な使い方、及びこれが使えると何がうれしいかということを宣伝を兼ねて紹介します。
世界的にはRacketがよく使われている(らしい)のですが、日本でSchemeと言えばGaucheがまず挙げられるのではないでしょうか。しかし、GaucheはR5RS準拠の処理系ということで、R6RSで書かれたライブラリを実行することが不可能です(2012年12月3日現在)。でも、Gaucheの独自拡張されたリーダマクロを使いつつ、R6RSのライブラリも使いたい!そんなこと考えたことありませんか?そこでSagittariusの出番です(宣伝ここまで)。
SRFI-14な文字セットをリード時に読み込むことを考えます(*1)。Gaucheでは以下のように書けます。
#[a-zA-Z] ;; -> 文字セット(#[a-zA-Z]と表示されます)これはGaucheの独自拡張なので、他のScheme処理系とは互換性がありません。でも便利そうですよね?じゃあ、こう書けるようにしてみましょう!
(library (char-set reader)
(export :export-reader-macro)
(import (rnrs) (sagittarius reader)
(srfi :14))
(define-dispatch-macro charset-reader #\# #\[
(lambda (port subc param)
(let loop ((cs (char-set-copy char-set:empty)))
(let ((c (get-char port)))
(if (char=? c #\])
cs
(let ((nc (lookahead-char port)))
(cond ((char=? nc #\-)
(get-char port)
(let ((c2 (get-char port)))
(if (char=? c2 #\])
(char-set-adjoin! cs c nc)
(loop (ucs-range->char-set!
(char->integer c)
(+ (char->integer c2) 1)
#f
cs)))))
(else
(loop (char-set-adjoin! cs c))))))))))
)
#!read-macro=char-set/reader
'#[a-zABC] ;; -> #<char-set #\A-#\C #\a-#\z>
#[a-] ;; -> #<char-set #\--#\- #\a-#\a>
たったこれだけでGauche互換な文字セットリーダが書けます(*2)。2日目の記事を読まれた方には簡単すぎるかもしれませんが、簡単な解説です。上記のコードは
#\#と#\[の組み合わせをリーダマクロとして使用することを宣言しています。(CLでいうset-dispatch-macroと同義。)定義はリファレンスマニュアルを参照していただくとして、問題の中身です。コードを見ればすぐに分かるレベルの単純なものですが、最初に空の文字セットをコピーして読み取った文字、もしくは文字範囲(#\-でつながっている文字)を文字セットに破壊的に追加していき、#\]を読むまで続けます。(ちなみに、EOFまで読んでしまうとchar=?が&assertionを投げます。あまりよくない振る舞いですので、実用する際はeof-object?で検出して適切な例外を投げた方がいいでしょう。)しかし、最新のリリース(0.3.8)で上記のコードを使うとキャッシュを壊すので以下のように書く必要があります。
(library (char-set-good)
(export :export-reader-macro)
(import (rnrs)
(sagittarius reader)
(rename (only (srfi :1) alist-cons) (alist-cons acons))
(srfi :14))
(define-dispatch-macro char-set-reader #\# #\[
(lambda (port subc param)
(let loop ((ranges '()) (chars '()))
(let ((c (get-char port)))
(if (char=? c #\])
`(char-set-union (string->char-set ,(list->string chars))
,@(map (lambda (range)
`(ucs-range->char-set
,(car range) ,(cdr range))) ranges))
(let ((codepoint (char->integer c))
(nc (lookahead-char port)))
(cond ((char=? nc #\-)
(get-char port)
(let ((c2 (lookahead-char port)))
(cond ((char=? c2 #\])
(loop ranges (cons nc chars)))
(else
(get-char port)
(loop (acons codepoint (+ (char->integer c2) 1)
ranges)
chars)))))
(else
(loop ranges (cons c chars))))))))))
)
#!read-macro=char-set-good
(import (srfi :14))
#[a-zABC] ;; -> (char-set-union (string->char-set "CBA") (ucs-range->char-set 97 123))
#[a-] ;; -> #<char-set #\--#\- #\a-#\a>
これは、一部の組込みオブジェクトをキャッシュ機構がうまくキャッシュできないことに起因しています。次期リリースではある程度この問題が解決される予定です(少なくとも文字セットとハッシュテーブルは最新のHEADでは解決されています)。ユーザ定義のオブジェクトに対しては明示的にキャッシュとして書き出し、及び読み込みをするための手続きを定義することが可能です。リーダマクロは処理系依存な機能な上に、処理系によっては(主にSagittariusですが)制限もあったりと使いどころが難しいものかもしれません。しかし、SRFI-105等のリーダ拡張を必要とするライブラリにScheme側のみで対応できたり、処理系の独自拡張の差異を吸収できたりと便利かつ強力な機能でもあります。
3日目はSchemeでもリーダマクロを使う方法を紹介しました。
*1: Sagittariusでも正規表現の読み込みははC側で実装されているので例として使いにくかったのです。
*2: 実際にはGaucheの文字セット読み取り機能はもっと多機能なのでこれだけだと完全に互換とはいえないですが・・・
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