Schemeの最新規格であるR7RSは2つのパートに分かれている。R7RS-smallとR7RS-largeである。通常の文脈でR7RSといった場合はR7RS-smallを指すことが多い。ではR7RS-largeとはなんなのか?
目的
R7RS-largeの目的は以下である:Working group 2 will develop specifications, documents, and proofs of practical implementability for a language that embodies the essential character of Scheme, that is large enough to address the practical needs of mainstream software development, and that can be extended and integrated with other systems.とんでもなく要約すると、R7RS-smallだけでは実用的なプログラムを書けないので実用的なライブラリ等を整備するよ、という感じである。
The purpose of this work is to facilitate sharing of Scheme code. One goal is to be able to reuse code written in one conforming implementation in another conforming implementation with as little change as possible. Another goal is for users of this work to be able to understand each other's code based on a shared and unambiguous interpretation of its meaning.
The language is not necessarily intended for educational, research, or embedded use, though such uses are not prohibited. Therefore, it may be a "heavyweight" language compared to the language designed by working group 1.
From Charter for working group 2
どんな感じで進んでるのか
基本的にはWG2Docketsにある項目をSRFIに書き起こして議論し、最終的に投票をするという感じで進んでいる。現状ではRedDocket(データ構造)の投票までが終了している。それらのライブラリ名はWG2のMLに投げられただけで、今のところ明文化はされていない。コミュニティが小さい+(残念ながら)あまり興味のある人がいないというのが大きな問題だろう。最新のSRFIではOrangeDocket(数値)に関するものが出てきている。ちなみに、風の噂で流れている(た?)ERマクロがR7RS-largeに入るという話は、YellowDocket(構文)に入っているので、Orangeが終わったら着手される可能性がある。RedがR7RS-small制定から3年かかっているので、決まるのは単純計算で6年後ということにはなるが…
決定されたライブラリ
上記のMLを見ればわかるんだけど、文量を増やすために現在までにR7RS-largeに入ることが決定したライブラリとその概要を書いてみたりする。上記のリストからコピーしている(タイポ含む)- SRFI 1 (scheme list)
古くからあるリストSRFI。ほぼ全ての処理系で使えるといってもまぁ過言ではないくらい有名なやつ。 - SRFI 133 (scheme vector)
SRFI-43だとR7RS的に互換性がないからという理由で割と最近作られたベクタSRFI。 - SRFI 132 (scheme sorting)
ソートSRFI-32が棄却されて12年経った後に出てきたソートSRFI。大体一緒なんだけど、細かいところでAPIが違う。 - SRFI 113 (scheme set)
リスト、ベクタがあるのにセットがないのはどうよっていうので出てきたSRFI。 - SRFI 114 (scheme set char)
ほぼ間違いないSRFI-14のタイポ。これまた古くからある文字セット用SRFI。 - SRFI 125 (scheme hash-table)
R7RSのハッシュテーブルはSRFI-69の後継にあたるSRFIになった。R6RSのハッシュテーブルがあるのにという気持ちでいっぱいの僕としては気に入らない決定の一つ。 - SRFI 116 (scheme list immutable)
不変リストなSRFI。中身はほぼSRFI-1と一緒なんだけど、受け取るものが不変リストであるというところが違う。一応通常のcar
とかが不変リストを受け取ってもよしなに計らってくれることを推奨しているけど、サポートしてる処理系あるのかな? - SRFI 101 (scheme list random-access)
ランダムアクセス可能なリストSRFI。正直なんでこれがR7RS-largeに入ったのかはよく分からない。 - SRFI 134 (scheme deque immutable)
不変な双方向キューSRFI。 - SRFI 135 (scheme textual)
O(1)アクセスを保証するテキスト処理SRFI。R7RS-small的には文字列のO(1)アクセスは明示的に要求していないとしているので、パフォーマンスが気になる場合はこっちを使うという感じ。 - SRFI 121 (scheme generator)
Gaucheのgeneratorが元のSRFI。 - SRFI 128 (scheme lazy-seq)
ほぼ間違いなくSRFI-127のタイポ。GaucheのlseqにインスパイアされたSRFI。SRFI-41のストリームとは多少違うらしいが、ほぼ気にしなくてもいいらしい。 - SRFI 41 (scheme stream)
遅延ストリームSRFI。このSRFIはSRFI史上初のR6RSライブラリを使って参照実装が実装されている。 - SRFI 111 (scheme box)
ボックスSRFI。ボックスは名前が示す通り単なる箱で、Schemeのオブジェクトをなんでも格納しておくことができるもの。これを使うと明示的に参照渡しが可能になるはず。まぁ、あると便利だけど、なければ(vector obj)
で代用できてしまうようなもの。コンパイラが頑張ると最適化してくれるかもしれない。 - SRFI 117 (scheme list queue)
単方向キューSRFI。元々はキューという名前だけだったんだけど、SRFI自体がリストを基に実装されていることを前提にしていたので改名されたという経緯がある。SLIBにあった奴とほぼ同じ。 - SRFI 124 (scheme ephemeron)
実装者泣かせSRFIの一つ。キーと値を持つデータ構造で、基本的な部分では弱い参照と一緒なんだけど、値がキーを参照していた際でもGCされるという特徴を持つもの。噂によるとまともに実装されているのはRacketとMIT Schemeくらいらしい。 - SRFI 128 (scheme comparator)
SRFI-114はあまりにも醜いという理由から作られたSRFI。ちなみに片方あればもう片方は実装できる。
控えているライブラリ
以下には入るかもしれないし、入らないかもしれない議論すらされてないライブラリを載せる。既にSRFIになってるものはそのSRFI+その他の提案。まだ提案なだけなものリストだけで提案は省略。- OrangeDocket: 数値関係
- Numeric types and operations:
- Integer division: SRFI-141
- Bitwise integer operations: SRFI-142, SRFI-60 or R6RS
- Fixnums: SRFI-143 or R6RS
- Flonums: SRFI-144 or R6RS
- Compnums: John's proposal
- Random numbers: SRFI-27 plus Gauche's generator
- Prime numbers: Gauche's prime number library
- Numeric and semi-numeric data structures
- Enumerations (なんでこれここにあるんだろう?)
- Formatting (同上)
- YellowDocket: 構文関係
- Low-level macros (有名どころの低レベルマクロがリストされてる)
- Syntax parameters: SRFI-139
- Matching (パターンマッチ)
- Combinators
- Conditional procedures (if等をdefineで定義した感じのなにか?)
- cond guards: SRFI-61
- Lambda* (Scheme Workshop 2013に出た論文がもとっぽい)
- Void (eq?で比較可能なNULLオブジェクト)
- Named parameters: John's proposal or SRFI-89
- Generalized set!: SRFI-17
- and-let*: SRFI2
- receive: SRFI-8
- cut/cute: SRFI 26
- Loops: SRFI-42, foof-loop or Chibh loop
- Generic accessors/mutators: SRFI-123
- Conditions (例外、なぜにR6RSではないのか…)
- GreenDocket: ポータブルに書けない何か
- File I/O
- Threads: SRFI-18
- Real-time threads: SRFI-21 (分ける必要あるのか?)
- Socket: SRFI-106
- Datagram channels (UDP sockets)
- Timers: SRFI-120 (なんでこれがあるんだろう?)
- Mutable environments
- Simple POSIX (Windowsは完全無視ですね、わかります)
- Access to the REPL (これ完全にR6RS殺しに来てるな…)
- Library declarations
- Symbols
- Interfaces
- Process ports (紛らわしいけど、プロセスI/Oをポートにリダイレクトする話)
- Directory ports (ディレクトリをポートみたいに読む、正直紛らわしい)
- Directory creation/deletion
- Port operations
- System commands (Process portsと被り気味な気がする)
- Pure delay/force (スレッドを使ったdelay/forceっぽい)
- BlueDocket: ポータブルだけど高度なものたち(portable but advanced things)
- Time types: SRFI-19
- Binary I/O
- Character conversion (要するにR6RSのコーデック的なもの)
- Parallel promises (pure delay/forceじゃだめなん?)
- Pathname objects
- URI objects
- Unicode character database
- Environment (紛らわしいけどusernameとかメモリとかを引くためのもの)
- Trees (リストにあるけど提案なし)
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