Syntax highlighter

2019-05-24

R6RS ライブラリ周りの解説

ツイッターで R6RS のライブラリ解決の挙動について言及している呟きを見かけたので、ちょっと書いてみることにした。あくまで Sagittarius 内部ではこうしているというだけで、これが唯一解ではないことに注意。

R6RS 的なライブラリファイルの位置付け

R6RS 的にはライブラリはファイルである必要はない。ライブラリは式の定義が書かれていると記載されているだけで特にそれがどこにあるかということには言及していないからだ。これを都合よく解釈すれば、処理系の判断でライブラリを In Memory にしておいても問題ないし、マシン語の塊にしておいても問題ないということである。またライブラリは Top level のプログラムではないので、スクリプトファイルにその定義を置くことは許されていない(っが Sagittarius では利便性のため許していたりする)。

このことから、ライブラリを外部ファイルに置くというのは実は処理系依存の挙動であると言える。言い換えると、R6RS が提供する標準ライブラリ以外を使ったプログラムは処理系依存ということになるし、ライブラリ自体を記述することは処理系依存になるということでもある。

要するに R6RS 的にはライブラリという枠組みは用意するけど、それらをどう扱うかは適当に都合よく解釈してねということだ。ある意味 Scheme っぽい。これを踏まえつつ、Sagittarius ではライブラリの解決がどう行われるかを記述していく。

import 句

Top level のプログラムはプログラムの開始に import 句を一つ必ずもつ必要がある。import 句はこの宇宙のどこかにある指定されたライブラリを探し出す必要がある。Sagittarius では探索範囲を load path または In Memory としかつ、必要であればライブラリ名をファイル名に変換して探索する。処理としては
  1. ライブラリ名で読み込み済みライブラリを検索
  2. 見つかったらそれを返す
  3. 見つからなかったら、ライブラリ名をファイル名に変換し、 load path 上を探し load する
  4. 1を試し、見つからなかったらエラー
というようなことをしている。
ライブラリ名の変換はファイルシステムの制約も入ってくるので、シンボルはエスケープしたりしている。

余談だが、load する代わりに read して eval した方がいいような気がする。load だと、ライブラリ以外の式も評価されてしまうというオマケが付くからなのだが、これに依存したコード書いてたか記憶がない…

library

ライブラリは書式以外は処理系依存であるということは上記ですでに触れたので、ここでは de-facto な挙動と完全処理系依存の挙動を記して、どうすればある程度ポータブルにライブラリを記述できるかを示すことにする。

De-facto な挙動

  1. R6RSのライブラリは拡張子 .sls を使う
  2. 特定の処理系のみに読み込んで欲しい場合は .sagittarius.sls の様な .処理系名.sls 形式を使う
  3. ライブラリファイル名は空白をファイルセパレータに置き換える。例 (rnrs base) なら rnrs/base.sls になる。

処理系依存な挙動

  1. load path の指定。処理系ごとに指定の仕方が違う。既定の場所も処理系ごとに違う。
  2. 複数ライブラリを一ファイルに押し込める
    1. 処理系によっては許している(例: Sagittarius)
    2. 基本ポータブルにしたいなら使わないか、処理系依存の処理を押し込めたファイルのみに適用する
  3. meta キーワード
    R6RS で定められているが、処理系ごとに挙動が違う。以下のどちらかになる
    1. 完全無視
    2. フェーズを意識する
    ので、よりポータブルにしたいなら、フェーズを意識して書いた方が良い。

meta キーワード

上記で meta キーワードについて多少触れたので折角なのでもう少し突っ込んでみることにする。
いくつかの処理系、知っている限りでは plt-r6rs と André van Tonder の展開器を使っている処理系だけだが、ではマクロ展開のフェーズ管理を厳密に行う。端的に言えば、マクロ展開時に import された束縛と実行時に import された束縛は別物として扱われるということである。例えば以下のコード
(import (rnrs)
 (only (srfi :1) make-list))

(define-syntax foo
  (lambda (x)
    (define (ntimes i n)  ;; >- expand (meta 1) phase
      (make-list (syntax->datum n) (syntax->datum i)))
    (syntax-case x ()
     ((_ y n)
      (with-syntax (((y* ...) (ntimes #'y #'n)))
        #'(display '(y* ...)))))))
(foo x 5)
フェーズに厳しい処理系だと上記はエラーになるが、フェーズに緩い(または自動でフェーズを検出する)処理系だと上記は(x x x x x) を表示する。これをポータブルに書くには SRFI-1 を import する部分を以下のように書き換える必要がある。
(for (only (srfi :1) make-list) expand)
Sagittarius はフェーズに緩いので、マクロが展開される環境 ≒ 実行時環境になっている(厳密には違うが、処理系自体を弄らない限り意識することなないはず)。

フェーズは低レベルマクロを使用しかつその中で (rnrs) 以外のライブラリを使うもしくは、(meta 2) 以上のコードを書く際に意識する必要がある。(meta 2) はマクロ内で内部マクロを使いかつその内部マクロで別ライブラリの束縛を参照する必要があるので、普通にコードを書いていたらまずお目にかからないだろう。ちなみに、マクロ内で (meta 0) の束縛を参照するのはエラーなので、マクロ内部での内部定義はコピペが横行しやすい。

割とどうでもいいのだが、(rnrs) またはその下にぶら下がっているライブラリ(例: (rnrs base))は (meta 0)(meta 1) で export されているのだが、これを他のライブラリでやる方法は R6RS の範囲では定められていなかったりする。

論旨がまとまらなくなってきたからこの辺で終わり。